喫煙が口腔内におよぼす悪影響(喫煙と歯周病)
2021.07.30
カテゴリー: 院長日記
厚生労働省の最新タバコ情報によると、習慣的に喫煙している人の割合は、平成元年から令和元年にかけて、男性が55.3%から27.1%へ減少し、女性は9.4%から7.6%へ減少しています。
日本へのタバコの伝来は、南蛮貿易によるポルトガルやスペインからのものであり、鉄砲の伝来とほぼ同じころの16世紀中ごろと言われています。{鉄砲が伝わったのが1543年(銃暦「じゅうごよみ1543」、キリスト教が伝わったのが1549年(「以後よく1549、広まるキリスト教」今から、およそ、480年前のことです。徳川家康が江戸幕府を開く頃には、タバコに関する歴史的資料が一気に増えて、いかにタバコが江戸時代の人々に急速に普及していったかが分かります。江戸時代には数回にわたり、禁煙令やタバコの売買・耕作の禁止令がしかれているという事もあったようです。
いつの時代にも喫煙をめぐっては、さまざまな議論があり、それにも関わらず喫煙習慣は途絶えることなく、その時代の文化と関わり合いながら現在まで引き継がれてきています。
「タバコは百害あって一利なし」「タバコは身体に良くない」と言われ、タバコの害については誰でも知っていますし、喫煙者も含めて、誰もが知っているはずだと思います。今回は
タバコがおよぼす口腔の影響について考えてみたいと思います。
それでは、タバコの害について考えてみたいと思います。タバコにはどんな物質が含まれているのでしょうか?
タバコの煙の中には、約4,000種類もの化学物質が含まれ、そのうちの約200種類が有害物質で、ニコチン、タール、一酸化炭素が3大有害物質と言われています。発がん物質も50種類以上あると言われていています。さらに、タバコは、喫煙者だけの問題ではなく、タバコから吸い込んだ主流煙を喫煙者が吐き出す呼出煙と副流煙からなる受動喫煙(secondhand smoke)により不特定多数の方々の健康にも悪影響を与えるともいわれています。さらに、「タバコを消した後にも残っているタバコ煙による汚染、 残留タバコ成分による健康被害、三次喫煙(thirdhand smoke)」による健康被害までも留意する必要があります。主流煙には200種類を超える有害物質が含まれますが、実は、副流煙の方がそれらの有害物質の濃度が高いことが分っています。発がんに関係する物質であるベンツピレンでは、副流煙の方が主流煙よりも4倍近く含まれており、同じく発がんに関係するジメチルニトロサミンは20倍含まれているというデータもあります。通常、タバコを吸った場合、副流煙の方が周りに多く流れていき、これを周りの方々が吸い込み、受動喫煙を行うことになってしまいます。
三次喫煙って、あまり馴染みのない言葉ですが、
三次喫煙とは厚生労働省のe-ヘルスネットによると、「タバコを消した後に残留する化学物質を吸入すること。残留受動喫煙、サードハンド・スモークとも呼ばれています。
三次喫煙は、環境たばこ煙そのものに曝露される受動喫煙とは異なり、たばこの火が消された後も残留する化学物質を吸入することをいいます。たばこ由来のニコチンや化学物質は、喫煙者の毛髪や衣類、部屋や自動車のソファやカーペット、カーテンなどの表面に付着して残留することが知られています。それが反応、再放散したものが汚染源になり、三次喫煙が発生すると考えられています。部屋で過ごす時間が長い乳幼児などでは三次喫煙による影響が懸念されます。三次喫煙は新しい概念であるため、研究はまだ少なく、健康影響についてもまだ明らかでありません。しかし、三次喫煙を防ぐ方法はすでに明らかで、それは屋内を完全禁煙にすることです。」とのことです。
また、3大有害物質のうちの中で、喫煙における薬物依存があるのはニコチンです。
タバコをなかなか止められないのは、「ニコチン中毒」なのです。タバコのパッケージに記載がある、ニコチン○mgという表記はタバコの強さの指標の一つにもなっている物質です。
今までは、タバコは身近にある嗜好品のひとつであり、喫煙は単なる習慣で、本人の「意思」の間題であるとみなされていました。しかし、現在では、タバコが止められないのは、心理的依存とニコチン(依存性薬物)に対する身体的依存(ニコチン依存)より成り立つ「ニコチン依存症(薬物依存症の一つ)」という精神疾患として認識されています。
禁煙のために、歯科では禁煙支援を行っているところもあります。残念ながら保険適応ではありませんが、プラークコントロールと同じように、歯周病の治療には禁煙が効果的です。
心理的依存では身体的な依存はないが、つい習慣で吸ってしまうというものです。これには習慣を変えるのがポイントです。食後に吸いたくなるなら、食べ終わったらすぐに歯を磨く、コーヒーを飲むと吸いたくなるなら、しばらくは紅茶にかえてみる、というような工夫もいいかもしれません。身体的依存はいわゆる「薬物」に対する依存で、体内のニコチン濃度が減ると「離脱症状」がでて、またニコチンが欲しくなります。離脱症状を抑えるには、ニコチンパッチなどのニコチン補充療法が有効です。
医科では、このニコチン依存症に対して、合同9学会(日本口腔衛生学会、日本口腔外科学会、日本公衆衛生学会、日本呼吸器学会、日本産科婦人科学会、日本循環器学会、日本小児科学会、日本心臓病学会、日本肺癌学会)による禁煙ガイドライン(2005年12月発表)に基づく禁煙治療が2006年4月より一定の条件を満たした医療機関では保険診療可能となっています。すなわち、タバコを吸うことは病気、「ニコチン依存症とその関連疾患からなる喫煙病」という全身の病気で、「喫煙者は積極的禁煙治療を必要とする患者(タバコの犠牲者)」という考え方が基本になっています。
2010年(平成22年)2月22日、禁煙推進学術ネットワークでは、スワンスワン(吸わん吸わん)で禁煙を!をスローガンに、毎月22日を「禁煙の日」として、日本記念日協会に登録しました。これは、喫煙の害や禁煙の重要性に関する知識を普及・啓発することや、受動喫煙防止のための社会的な禁煙推進を活発化させることなどを目的として制定されたもので、脱タバコ啓発活動を積極的に行っています。
喫煙は、世界保健機関(WHO)も指摘しているように、予防可能な単一で最大の「病気( 喫煙関連疾患)の原因」です。喫煙は、肺がんを含む多くのがん、心筋梗塞などの循環器疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患、消化器疾患、歯周疾患、胎児の成長障害を含む周産期合併症、周術期合併症、その他さまざまな病気や健康障害の原因となっています。
次に、タバコが口腔に及ぼす影響について考えてみます。
タバコの全身への害はよく知られていますが、口腔による害についてはあまり知られていないようです。タバコの煙が最初に通過する口腔は、喫煙の悪影響が最初に貯留する器官です。すなわち、口腔に貯留、通過するタバコの煙による直接的影響と血液を介した間接的影響の双方が関わってきます。喫煙をすることにより、歯の表面に「ヤニ」がつくだけでなく、口腔ガンの発生率が増加するなど、悪影響がたくさんあります。特に、身近なのは歯周病のリスクファクター(危険因子)となることです。タバコにより、歯肉にも着色が起こります。それに加えて、口腔・咽頭ガンの発生率が非喫煙者に比べて約3倍になるほか、味覚が鈍くなったり、口臭を悪化させたりします。1980年ごろから、喫煙者と非喫煙者で歯周病の進行具合に差があることが注目されはじめ、現在では喫煙が歯周病の大きなリスク要因であることが分っています。非喫煙者と比較すると喫煙者の歯周病の罹患リスクは2.7倍になり、歯の喪失は10年早まると言われています。特定の細菌や年齢、糖尿病などというよりも、喫煙の方が歯周病の重症度と関連が深いという報告もあります。
喫煙の歯周病への影響は、「かかりやすい」「気がつきにくい」「治りにくい」の3つがあります。生体の本来の免疫機能が喫煙により妨げられるため、歯周病にかかりやすくなります。喫煙者は非喫煙者に比べて歯周病の罹患率が高く、重度に進行した人の割合も高いことが知られています。また、ニコチンの血管収縮作用により炎症症状が隠され、歯周病が進行しても出血などの自覚症状がでにくくなり、そのため、発見が遅れてしまい、気づいたら重度の歯周病になっていたということや、歯肉に赤みや腫れがそれほど目立たないのに、歯周組織の破壊が進んでいることもあります。さらに、治療を始めても、喫煙者の歯肉は硬くて
沈着物の除去が難しく、歯周組織の修復も阻害されているため、思うように治療効果が上がらないことが多いです。
小児のう蝕発生率が親が喫煙者であるか、非喫煙者であるかで違ってくるとの報告もあります。最近の報告では、保護者の喫煙により、タバコの煙に含まれるいくつかの有害物質の影響で、子どものう蝕リスクが高まる可能性が示唆されています。多くの研究で、家族に喫煙者がいる子どもはそうでない子どもに比べて、う蝕有病率が高かったと報告されており、その科学的根拠は、すでに因果関係を示唆するレベルに到達していると言われています。
なぜ、受動喫煙がう蝕と関連するのかはまだ十分解明されていませんが、タバコの煙に含まれるいくつかの有害物質が、う蝕菌や唾液、歯質に影響を与えることにより、う蝕のリスクが高まるのではないかと推定されています。ニコチンによるミュータンス連鎖球菌の成長促進や、バイオフィルムの形成促進、カドミウムによる唾液腺や歯質の結晶化の傷害が確認されています受動喫煙により子どもの健康を損なう可能性もあります。
でも、禁煙をすることで、口腔内も健康を取り戻します。継続すると歯周病のリスクも低下します。禁煙直後は正常な歯肉の反応で一時的に出血が増えることもありますが、歯肉が健康を取り戻せば、次第に治まってきます。一時的に出血が増えるのは、ニコチンの血管収縮作用がなくなるためです。また、正常な炎症反応が戻ることにより、赤みや腫れなども増すこともあります。どちらも一時的なものです。プラークコントロールがきちんとできていれば治まってきます。禁煙を続けることによって、歯肉はピンク色になりみずみずしさを取り戻し、メラニン色素の着色があっても薄くなってくることが多いです。
喫煙の問題は個人だけの考えでは解決は難しいと思います。家族や友人、職場の同僚など周囲の人と一緒になって考え、日々の健康で楽しい日常生活を送って頂きたいと思います。
先日、南日本新聞に「喫煙の死者769万人」19年、日本は20万人 と載っていました。
以下、参考までに抜粋です。
喫煙に関係するさまざまな病気によって、2019年に世界全体で約769万人が死亡したとする推計結果を、国際研究チームが英医学誌ランセットに発表した。
日本の死者は約20万人とみられ、世界の国の中で6番目に多かった。200以上の国や地域を対象に3千を超す健康調査データを分析。19年の世界の喫煙者は
11億人以上に達し、年間7兆本ものたばこ製品が消費されていた。喫煙率は先進国などで下降傾向にあるが、人口が急増するアフリカなどの発展途上国で
たばこをて吸う人が増えているのを反映した形だ。死者が最多だったのは中国で約242万人。世界全体の3割近くを占めた。次いでインドが約101万人、
米国が約53万人、ロシアが約29万人、インドネシアが約25万人と続いた。
直接の死亡原因となった病気は、虚血性心疾患や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺がんや脳卒中などが多い。いずれも喫煙によって発症リスクが高まる
ことが知られている。今回の推計には受動喫煙による健康被害は含まれていない。
死者の87%が現在も喫煙中の人で、たばこをやめてから15年以上たった人の割合は6%にとどまることも分かった。禁煙の有効性があらためて示された。
以上、抜粋。
喫煙に関係する病気での死者の87%が喫煙中の方であり、たばこを辞めてから15年以上たった人の割合が6%にとどまることから、禁煙がいかに有効かが
分かります。しかも、禁煙することで、受動喫煙による健康被害もなくなります。